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特集

めまいのお話
 
  8.末梢性めまいをきたす耳科的疾患について
   
 
(4) めまいを伴う突発性難聴
 突発性難聴は突然に起きる感音難聴で原因が不明で難聴,耳鳴等の蝸牛症状と共に前庭症状としてめまい(嘔気,嘔吐を伴うことがあります)が難聴の発生と同時または前後して生じますが、めまい発作を繰り返すことは有りません。難聴の前または同時に起こるめまいは回転感が多く、難聴発症後に起こるめまいは動揺感、浮動感が多いとされています。ほとんどの例ではめまいは一過性ですが、中には特に高齢者ではめまい感、ふらつきは突発性難聴発症後1年以上訴える例もあります。

1 めまいを伴う突発性難聴のまとめ
原因:内耳の循環・血流障害、内耳のウイルス感染などが考えられています。
症状:ある日突然、片方の耳が聞えなくなります。激しい回転性めまいを伴うことがありますが繰り返すことはなく次第におさまりますが聴力障害はできるだけ早く治療しないと治癒しない例が多く、発症後2週間過ぎますと聴力の改善は難しくなります。できるだけ早期の治療開始が望まれます。

(5) 内耳炎によるめまい
 内耳は蝸牛と半規管・前庭よりなっておりこの内耳に炎症が生じた病態が内耳炎で蝸牛が侵されれば聴力障害(難聴)が、半規管・前庭が侵されれば前庭症状としてめまいが生じます。内耳炎は種々の原因によって起きますがその主な疾患を挙げてみます。

1 急性中耳炎、慢性中耳炎・真珠腫性中耳炎
急性中耳炎に続発して内耳炎が発症する頻度は少なからずありますが長期にわたる慢性中耳炎によって内耳に炎症が及んでめまいをきたすことは往々みられます。怖いのは中耳の真珠腫が内耳の骨壁にまで浸潤して迷路に瘻孔をつくり中耳の炎症が内耳に及ぶことです。このような病態に至りますとめまいやふらふら感,浮動感が起きます。慢性中耳炎特に真珠腫性中耳炎と診断された方は日頃から定期的に診察されて病状に変化がないかどうか画像検査等を含めた検査を受けて頂きたいと思います。

2 ウイルス性内耳炎によるめまい
1: ムンプス難聴
ムンプスというのは、流行性耳下腺炎のことでムンプスウイルス感染によって主として耳下部の腫脹する、いわゆるおたふくかぜですがこのおたふくかぜに罹患しますと15000〜20000人に1名の頻度でムンプス難聴が起きます。ムンプスウイルスによる内耳炎によるものです。難聴のみではなく、特に成人になってムンプスに罹患しますと前庭・半規管も傷害されてめまいが起きます。
本疾患の予防はおたふくかぜワクチンの接種です。このワクチンは任意(本人、家族の希望による)接種です。通常は1歳過ぎに1回接種しますが接種年齢に上限はなく成人にも安全に接種できますがこの場合は過去にムンプスに罹患していないかを抗体検査をして罹患していないことを確かめて接種した方がよいと思います。

2: Hunt(ハント)症候群
この疾患はヘルペスウイルスの中の水痘・帯状疱疹ウイルスが顔面神経、内耳神経、三叉神経、舌咽神経、頚神経等に感染して発症します。症状として耳介、外耳道、口蓋の疱疹、鼓膜炎、顔面神経麻痺そして第8脳神経の症状として耳鳴、難聴、めまいが出現します。小生は22歳時にこの疾患に罹患し左顔面神経麻痺、難聴、味覚異常、夜も眠れないほどの激しい耳痛、そしてめまいでほとんど歩けない状態で廊下を伝い歩きしなければならず、更に吐き気にも悩まされて食べられない日々が約1週間持続しました。当時、医学生であった小生でしたが何の病気か分からずこれは脳腫瘍ではないかと大きな不安を感じたことを今でも思い出します。めまいはやがてふらふらする浮動感になり、顔面神経麻痺は30日後には治癒しましたが左難聴と耳鳴は後遺症として残り、最近は加齢による難聴の増悪もあって時に補聴器を要するようになりました。小生が耳鼻科医になったのはこのハント症候群に罹患したことが大きな理由になりました。罹患時のめまいはその後経験していません。

3: 梅毒性内耳炎
スピロヘータ―による血行性内耳炎として発症します。先天性と後天性に分類されますが後天性梅毒性内耳炎は両側性の聴力障害でメニエール病と類似した聴力変動を示すこともあり、めまい発作を繰り返す例もみられます。

4: 外リンパ瘻
めまい、難聴、耳鳴、耳閉塞感を訴える内耳疾患の中に外リンパ瘻があります。外リンパ瘻と診断するには下記の診断基準が設定されています。
a. 外リンパ瘻の診断基準(厚生省特定疾患急性高度難聴研究班平成2年度案による)
a) 確実例
手術(鼓室開放術)、内視鏡などにより前庭窓、蝸牛窓のいずれか、または両者より外リンパ、あるいは髄液の漏出をできたもの、または瘻孔の確認できたもの
b) 疑い例
髄液圧、鼓室圧の急激な変動を起こすような誘因の後に耳閉感、難聴、耳鳴、めまい、平衡障害などが生じた(註1〜註8)
註1 力み、重いものを持ち上げた、鼻かみ、努責、潜水、飛行機旅行などが誘因となる
註2 症状は全部揃わなくてもよい。いずれか一つのこともある
註3 パチッという音(pop)を伴うことがある
註4 再発することがある
註5 感音難聴が数日間、数日かけて生じた。ときに変動する
註6 急性発症の難聴があって“水の流れるような耳鳴”あるいは“水の流れる感じ”がある
註7 外耳・中耳の加圧・減圧などでめまいを訴える
註8 動揺感が持続し、患側下で頭位眼振がみられる
上述したように診断には問診(患者さんとの症状について医師が色々と質問すること)が重要で診断基準にあるように髄液圧の上昇、鼓室圧の上昇が発症の誘因となっているかどうかを詳しく質問させて頂きます。
3 臨 床 症 状
1: めまい:回転性めまいよりもふらつきを訴える場合が多く頭部を患側に急激に回転するとふらつき、歩行時に患側へ偏倚してまっすぐ歩けなくなり、患側耳の側に寄っていきます。
2: 聴力障害:急激に難聴が生じた時は突発性難聴との鑑別が必要となります。発症後、難聴が次第に進行する例や変動する例では外リンパ瘻が疑われます。

4 治療方針と手術
問診より本症が疑われるときはできるだけ早く治療を開始しなければなりません。瘻孔は自然に閉鎖することもありますので保存的治療としては外リンパ液が漏れ出さないようにするために頭部をやや高めにして仰臥位での安静を保持し突発性難聴に準じた治療を開始します。これ等の治療に抵抗して聴力が増悪したり、変動する時は試験的鼓室開放術(鼓膜を外耳道から剥離してめくり上げて中耳腔を観察して外リンパ液が漏れ出ていないか、瘻孔が無いかを確認する)を行います。瘻孔がみつかれば瘻孔を軟部組織で閉鎖します。聴力障害の改善は著明ではありませんがめまいの改善、治癒が期待されます。

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