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                        (3) | 
                        前 庭 神 経 炎 
                        前庭神経炎は末梢性のめまい疾患の中では、良性発作性頭位めまい症、メニエール病についで多くみられます。30歳〜50歳に多く発症し40歳前後に最も多くみられます。 
                         
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                        前庭神経炎の病因、病態 
                         内耳の半規管や耳石器の有毛細胞の変性をみたという報告もあり末梢前庭迷路から前庭神経、脳幹の前庭神経核までを含めた病変と考えられています。 
                         前庭神経炎のめまい発作に先立ち感冒様症状がみられることよりウイルス感染が病因とする考えもありますが断定はされてはいません。 | 
                      
                      
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                        1: | 
                        臨床症状 
                        突発的に発症する一回の激しい回転性めまいが主な症状で、嘔気、嘔吐を伴うことが多いが難聴は訴えません。回転性めまい発作は1日以上持続し、1週間は歩けない例もあります。多くの例は発症後2〜3か月でめまい感は消失しますが中には頭位を変換した時や暗いところでは浮動感が長期間持続する例もみられます。特に60歳以上の高齢者では検査上では異常がみられる例が多くなるとの報告もあります。 | 
                      
                      
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                        2: | 
                        診断基準(日本平衡神経科学会 1988年による) 
                        前庭神経炎と診断するためには以下の病歴、検査の条件を満たすことで診断されます。その条件を示します。少し難しい言葉や検査が出てきますが私達はこのように症状や検査を行うことで診断しています 
                         
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                        a) | 
                        病歴からの診断 | 
                      
                      
                         | 
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                        突発的なめまい発作を主訴とする。大きなめまいは一度のことが多い | 
                      
                      
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                        めまい発作の後、ふらつき感、頭重感が持続する | 
                      
                      
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                        めまいと直接関連をもつ蝸牛症状(聴力低下、耳鳴)を認めない。めまいの原因、あるいはめまいを誘発すると思われる疾患を既往歴にもたない | 
                      
                      
                         | 
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                          | 
                        めまいの発現に先行して7〜10日前後に上気道感染、あるいは感冒に罹患していることが多い 
                        
                        [注]  , 、 、 の条件がある場合、本症を疑う | 
                      
                      
                         | 
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                        b) | 
                        検査からの診断 | 
                      
                      
                         | 
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                          | 
                        聴力検査で、正常聴力または、めまいと直接関係しない聴力像を示す | 
                      
                      
                         | 
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                          | 
                        温度眼振検査で患側の温度反応高度て低下、又は無反応を示す。時に両側のものがある | 
                      
                      
                         | 
                         | 
                         | 
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                        めまい発作時には自発及び頭位眼振検査で方向固定性水平性(時に水平・回旋混合性)眼振をみる。通常、健側向きである | 
                      
                      
                         | 
                         | 
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                        神経学的検査で前庭神経以外の神経障害なし 
                        
                        [注] 、 、 、 の条件を認めた場合、本症と診断する 
                         
                         | 
                      
                      
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                         | 
                        付)補助診断検査 | 
                      
                      
                         | 
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                        神経学的検査で視標追跡検査、視運動性眼振検査は正常所見を示す | 
                      
                      
                         | 
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                         | 
                         | 
                         | 
                          | 
                        電気性身体動揺検査(GBST)及び電気性眼振検査で患側の反応低下を示す | 
                      
                      
                         | 
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                        血清ウイルス抗体価検査で、異常所見をみることあり(注:単純ヘルペス、EBウイルスが多い) | 
                      
                      
                         | 
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                         | 
                          | 
                        髄液検査で総蛋白量の増加をみることがある 
                         
                         | 
                      
                      
                         | 
                         | 
                         | 
                         | 
                        温度刺激検査(温度眼振検査)とは: 
                         
                         前庭神経炎の診断には温度刺激検査は必須の検査です。この検査は左右の内耳の機能を別々に評価できる検査として用いられます。内耳の三つの半規管のうち外側半規管は解剖学的に最も外耳道からの影響を受け易いことを利用して外耳道に注入した水の温度と体温との温度差によって外側半規管の中に内リンパ流動を起こし、その結果誘発される眼振を指標として外側半規管の機能を右耳、左耳別々に調べる検査で、通常患者さんを仰臥位にして枕の頭部を前屈30度の角度をつけた位置にして冷水30度、温水44度の水を検査する外耳道に注入して誘発される眼振をみます。この眼振を観察して得られる結果より正常、CP(半規管機能低下)疑い、中程度CP、高度CP、DP(眼振方向優位性)等の診断がなされます。前庭神経炎ではこの温度刺激検査では、一側の高度低下〜無反応のCPを示し本疾患の診断根拠となります。 | 
                      
                      
                         | 
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                         | 
                        3: | 
                        庭神経炎の治療 
                        急性期のめまいの治療としては抗めまい剤としてメイロン点滴・静脈注射、悪心嘔吐に対して制吐剤等を投与します。急性期においてステロイド剤の投与によってめまい症状の著明な改善、半規管機能低下の回復、自発眼振消失までの期間の短縮をみたとの報告もあり早期からステロイド剤が積極的に投与される傾向にあります。 
                        めまいの急性期を過ぎれば末梢前庭障害が回復していなくても平衡障害は中枢前庭系の機能代償によって次第に改善していきます。これを前庭代償といいます。従ってこの前庭代償を促すためにいたずらに安静を保持すべきではなくできるだけ早期離床を図り、積極的に平衡訓練、運動を反復練習するようにすべきです。 | 
                      
                      
                         | 
                         | 
                         | 
                        4: | 
                        庭神経炎の予後 
                        急性期のめまいは発症後3週から3カ月で消失し、平均1カ月で大部分は通常の日常生活にもどることができます。 | 
                      
                      
                         | 
                         | 
                         | 
                        5: | 
                        庭神経炎と鑑別すべき疾患 | 
                      
                      
                         | 
                         | 
                         | 
                         | 
                        a) | 
                        メニエール病:めまい発作が反復する。蝸牛症状(難聴、耳鳴)をともなう。温度刺激検査で半規管機能低下をみることが少ない。以上のことより鑑別されます。 | 
                      
                      
                         | 
                         | 
                         | 
                         | 
                        b) | 
                        良性発作性頭位めまい症:頭位性のめまいである。回転性めまいの持続時間が多くは1分以内であることなどから鑑別されます。 | 
                      
                      
                         | 
                         | 
                         | 
                         | 
                        c) | 
                        前下小脳動脈・後下小脳動脈循環障害:顔面のしびれ感、複視、小脳失調等を伴うことより鑑別されます。 
                         
                         | 
                      
                      
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                        前庭神経炎のまとめ 
                        原因:前庭神経の炎症によって起きます。風邪様症候の後に起ることが多いといわれています。 
                        症状:突然激しい回転性めまいが起きますが難聴・耳鳴は伴わず、頭位によってめまいの変化はみられません。めまいを繰り返すことはありません。 
                         
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