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特集

めまいのお話
 
  8.末梢性めまいをきたす耳科的疾患について
   
 
(7) 聴 神 経 腫 瘍
          
 聴神経腫瘍は、第VIII脳神経に発症する神経鞘腫で良性腫瘍ですが聴神経に発症することは稀で、殆どが前庭神経に発症します。聴神経腫瘍の大多数が内耳道内に発症します。このため内耳道内を走行する諸種の神経症状がみられます。

1 臨床症状
1: 難聴:蝸牛神経の圧迫や蝸牛神経の循環障害などによって生ずる難聴、耳鳴が初発症状で、80%がこれらを訴えて耳鼻科を受診することになりますので耳鼻科の責任は重いものがありこれらの症状を訴える患者さんを診たときは本疾患を常に考えておかなければならないのですがこのような訴え持つ患者さんは日常診療の場では非常に多く、見落とされる例も時に見られることも事実です。難聴は進行性で年単位で悪化していきます。従って初診時に診断されず何年か経ての聴力検査で聴力障害の増悪とめまいの出現でこの疾患が疑われ、諸検査で聴神経腫瘍の診断に至る例が多かったのですが最近は画像診断の進歩により一側性感音難聴・めまい例の画像検査で早期診断が可能になっています。聴神経腫瘍は緩徐に発症・進行しますが15〜20%の頻度で突発性難聴の発症と類似した症例がみられることです。このような症例では突発性難聴として治療を受けて改善する例もありますが常に聴神経腫瘍を疑い画像検査は行っておくべきと考えます。
2: めまい:聴神経系腫瘍は前庭神経に大部分が起源とするにもかかわらず難聴、耳鳴を主訴とする例が多く、めまいを主訴とする例は余り多くはないといわれてきました。これは本腫瘍の進行が緩徐でめまいは中枢性代償によって表に現れて来ないことによるといわれています。しかし約4割にめまいで発生するとの報告もみられます。めまいの性状はさまざまで、急激な頭位の変化で一過性の回転性めまいや突発性難聴様の発作性の回転性めまい、中には持続性の浮動感がある例等がみられます。腫瘍が大きくなりますと末梢前庭機能が喪失してめまいが生じにくくなり歩行時のふらつき等の平衡障害がみられるようになります。
3: その他の症状
(a) 耳鳴:種々の程度の聴力障害に耳鳴を伴う例が多くみられます。
(b) 顔面神経麻痺:以前は聴神経腫瘍の早期発見が難しく腫瘍進展して顔面神経麻痺を見る例がありましたが近年画像診断の発達により早期に発見されるようになり顔面神経麻痺をみる例は少なくなりましたが知覚障害として舌前2/3の味覚異常が見られる例があります。
(c) 腫瘍が増大して小脳橋角部に進展した症例では三叉神経障害を発生して顔面の知覚障害が出現してきます。

2 診断のための検査
1: 聴力検査:聴神経腫瘍の聴力障害の多くは高音部が聞えにくくなる高音障害型を示しますが早期の聴神経腫瘍例に中音部が聞えにくくなる谷型を呈する例が見られます。また中には低音部が障害される低音障害型をみることも少ないですが存在します。注意しなければならないのは突発性難聴に似た発生状況を示す聴神経腫瘍があることでこのような例で谷型の聴力障害をみるときは本疾患を疑って精査する必要があります。
2: 語音明瞭度検査:聴力障害の程度が比較的軽度であるにもかかわらずことばのききとりが悪い症例では本疾患の存在を考えなければなりません。
3: 聴性脳幹反応検査:この検査は聴神経腫瘍を疑う例では極めて信頼性の高い検査です。聴力の障害が軽度の段階でもこの検査で異常所見がみられますので聴神経腫瘍のスクリーニングにも適しています。
4: 平衡機能検査:聴神経腫瘍の初発症状は難聴、耳鳴などの蝸牛症状ですが時に回転性めまい・めまい感を伴う症例もありますので本疾患が疑われる時にはめまいの検査としての平衡機能検査が行われます。
(a) 眼振検査:めまいの訴えに対して眼振の有無やその性質を検査します。
(b) 温度刺激検査:この検査は聴神経腫瘍の早期診断として重要です。本検査は内耳の外側半規管の機能を診る検査ですが上前庭神経に支配されていますので上前庭神経の働きをみていることになります。聴神経腫瘍の発生は約8割が下前庭神経から発生しますので温度刺激検査が正常であっても聴神経腫瘍を否定することにはなりませんが異常がみられる例では診断価値があります。
(c) 前庭誘発筋電位検査(vestibular evoked myogenic potential):90db程度の純音で刺激して、その誘発電位を頚部より誘導する検査で下前庭神経の機能検査ですので下前庭神経由来の聴神経腫瘍の診断として有用とされています。
(d) 前庭脊髄反射検査:末梢前庭系に片側性の障害が生じますと足踏み検査を行いますと患側に偏倚する傾向がみられ、重心動揺検査でもこの片方に傾き易い傾向がみられ聴神経腫瘍のような一側性の障害があることを疑わせます。
(e) 画像診断:近年の画像診断の発達にはめざましいものがあります。特に臨床症状は呈していない高齢者が脳血管障害等を心配して脳ドック検診を受けたり、頭痛、めまいで脳神経外科を受診してCT、MRI検査で極めて早期の聴神経腫瘍が発見されることも最近はみられますが未だ聴神経腫瘍がその主訴である難聴、耳鳴、めまいを訴えるためにメニエール病、突発性難聴と診断されて長期に亘り本症が見逃されている例が結構多く私達耳鼻科医の力量が問われていると思います。単純CTのみでは充分ではなく造影CTでも内耳道限局例では見逃されることがあり造影MRIで確定診断されます。一側性感音難聴が次第に増悪し、これにめまい、めまい感を伴ってくる症例は聴神経腫瘍を疑いもちMRIを行うべきであると自らに言い聞かせています。

3 治 療:聴神経腫瘍は最近の大規模調査
(Laryngoscope.、Vol 115,No3 450−454)で腫瘍確認時の大きさは11.8mmで、その後43%が発育し、その年間平均の発育は1.9mmであった。一方57%が増大しなかったか縮小したと報告している。従って治療は腫瘍の大きさ、年齢、聴力障害の程度を考慮して患者さんは下記の治療方法を充分に説明を受け、慎重に選択されるべきです。
1: 経過観察:腫瘍の大きさ、年齢を考慮して定期的にMRI検査を受けて特に積極的治療をしないで経過をみる。
2: 手術的治療:経迷路法、中頭蓋窩法、後頭蓋窩法などの手術法がありますが腫瘍の大きさ、腫瘍の部位、及び顔面神経と聴力の保存等を考えて選択されます。
3: 定位放射線治療:ガンマナイフは定位的な脳の局所放射線装置で開頭することなく脳内の病変を治療することが可能です。2〜3cm以下の聴神経腫瘍は定位放射線照射の良い適応であり世界的レベルで治療の第一選択になりつつあり、治療後の顔面神経麻痺はほぼゼロ、腫瘍の5年、10年制御率も90%台になり、有効聴力温存率も60〜70%になっています。

以上、めまいについてその主な疾患、症状、検査、治療法について述べましたが一部専門的な記述もあり分かりにくい部分もあったかと思いますが皆さんに御理解頂きたいことはめまい、めまい感、平衡障害に気付かれましたらなるべく早期にかかりつけ医、脳神経外科、神経内科、そして私達、耳鼻科を受診して頂ければ幸いです。

めまいの主な障害部位(末梢性)
監修:川崎医科大学耳鼻咽喉科学教授 原田 保
資料提供:興和株式会社   
上記の方から、ご承認をいただき掲載しております。
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