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(1) |
小脳、脳幹部の働き |
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人間の平衡感覚の中枢として小脳は重要な役割を持っています。
小脳は色々な運動をスムーズ且つ正確に行い、体の筋肉の動きを調整して姿勢を保持する仕事も行っています。もっともこれらの働きは小脳単独で可能ではなく大脳、脊髄、前庭神経系等共同して機能しています。
従って小脳とこの周囲の神経組織との連絡路に障害が生じますとスムーズな運動や体のバランスが障害されてめまい、平衡障害が生じます。
脳幹部は両側大脳半球に挟まれる形で間脳から連続して中脳に移行し橋、延髄に至り、脊髄に連なっています。この中脳、橋、延髄を脳幹といい、この脳幹には重要な組織が多く集まっている部位です。その機能として重要なことは先ず脳神経の神経線維の中継所である脳神経核がここに多数集中していることです。
次ぎに重要なことは脳から末梢への求心性神経線維と末梢から脳への遠心性神経線維が集まった通路であることです。以上、説明にしましたことから小脳、脳幹に血管障害、循環障害が起きますと時には直接生命にかかわりますし本論の主題であります「めまい」の原因となることがお分かりいただけるかと思います。
めまいを起こして耳鼻科を受診される患者さん、特に高齢者の患者さんには脳血管障害が疑われる例が比較的多くみられます。脳血管障害の分類は先の分類の項で挙げましたがここでは私には専門外ですのでその主な疾患の症候についてのみ説明します。診断・治療については専門医の指示に従って頂きたく思います。
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(2) |
一過性脳虚血発作(TIA) |
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一過性脳虚血発作の定義 |
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一過性脳虚血発作とは左右の頚動脈や椎骨脳底動脈の潅流領域における局所神経症状を呈する短時間の発作で脳虚血以外の原因が考えにくく、24時間以内に後遺症を残さないで回復するものをいいます。
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一過性脳虚血発作(TIA)の考え方の変遷 |
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1950年代以前は一過性脳虚血発作は患者を病理学的に検索しても脳血管に明らかな閉塞を認められないことが多かったためにTIAは脳血管攣縮により生ずると考えられていました。その後、脳血管造影等の検査の向上によりTIAは脳血管不全、微小塞栓が本症の発生機序として重要と考えられるようになりました。この後、椎骨脳底動脈不全症、頚動脈不全症という用語が使用されることになります。これら脳血管不全とは主幹動脈の閉塞・狭窄等によりその血管を流れる部位、潅流領域といいますがその領域の血流が辛うじて保持されている状態を言います。このような状態にある時に僅かな血圧低下や頚部の回転による頚部血管への圧迫が起きますと脳潅流量が減少、虚血して色々な症状を呈するという考えです。
1990年代になりますとCTが導入され頚動脈系の脳虚血病巣が正確に診断可能となりそれまで用いられていました頚動脈不全という診断名は使われなくなりました。しかし、後頭蓋窩のCTによる診断精度は低く椎骨脳底動脈不全症の診断名は残ることになりました。しかし、最近の画像診断の進歩は著しいものがあり、MRI、MRA、頚部血管エコー検査等により椎骨脳底動脈領域の虚血性疾患の診断可能となりいずれ椎骨脳底動脈不全症という診断名もより確実な診断名に代わっていくと思われます。
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(3) |
発生機序による一過性脳虚血発作の分類 |
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微小塞栓説: |
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内頚動脈起始部などに発生したアテローム硬化巣(プラーク)の破綻によって潰瘍が形成され、ここに血小板血栓が付着します。この血栓が剥離して微小栓子となって脳内の小血管を閉塞して局所神経症状を起こしますが短時間で粉砕・溶解してしまい症状が消失します。
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血行力学説: |
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脳主幹動脈に既に狭窄・閉塞病変がありますと何等かの原因で全身血圧が低下しますと脳灌流圧が低下し、また脳循環自動調節能の障害があって側副血行路によって血流が保持されていた領域で脳血管不全が生じて一過性脳虚血症状が出現するとする説です。
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心原性塞栓説: |
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心弁膜疾患、心房細動、心筋梗塞、特発性心筋症、心内膜炎などの心疾患に起因する心原性塞栓によって一過性脳虚血発作を来すという説です。
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その他の説: |
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血液の凝集能異常、粘稠度、ヘマトクリット値等の血液学的要因、血管攣縮も一過性脳虚血発作に関与していると考えられています。
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(4) |
一過性脳虚血発作の臨床診断 |
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一過性脳虚血発作(TIA)の症状は内頚動脈系と椎骨脳底動脈系に大別されますが、その頻度は内頚動脈系TIAが約80%、椎骨脳底動脈系TIAが約20%といわれています。
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内頚動脈系TIAか椎骨動脈系TIAかの鑑別点 |
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症 候 |
内頚動脈系 |
椎骨動脈系 |
回転性めまい |
無し |
有り |
一側失明 |
有り |
無し |
両側視力障害 |
無し |
有り |
片麻痺 |
有り |
有り |
四肢麻痺 |
無し |
有り |
失語 |
有り |
無し |
構音障害 |
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有り |
一側しびれ |
有り |
有り |
両側しびれ |
無し |
有り |
小脳症状 |
無し |
有り |
発作ごとの症候の変動 |
無し |
有り |
発作の頻度 |
少ない |
多い |
脳梗塞への移行 |
多い |
少ない
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一過性脳虚血発作の予後 |
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TIAは脳梗塞の前駆症状と考えられ1/3が完全型脳梗塞に移行すると考えらますので一過性脳虚血発作の発生要因、発現機序を十分に検索してこれに対応する予防治療を開始すべきです。診断・治療法については専門医にお任せしたいと思います。
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